2021.10.21
“DX(デジタルトランスフォーメーション)”という言葉はビジネスのさまざまなシーンで耳にするようになりましたが、「建設業のDX」とはどのようなものなのでしょうか。
建設業での現場は熟練技術による臨機応変さが求められることが多いので、デジタル技術がどのように応用されていくのか、イメージしづらいかもしれません。
そこで今回は、建設業におけるDXの意味やメリット・デメリットを解説し、後半では建設業でのDX事例についてもご紹介していきます。
ここでは、DXとは何かの定義や、日本におけるDXの現状について解説します。
「DX」とは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略。その定義については経済産業省の令和2(2020)年12月28日付資料「DXレポート2-中間取りまとめ」の中で次のように記されています。
“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること”
(経済産業省 DX レポート 2(中間とりまとめ)概要)
ポイントをまとめると次のようになります。
ポイント① データとデジタル技術を活用すること
ポイント② ユーザーに新しい価値を提供すること
ポイント③ 「効率化」ではなく「変革」であること
特にポイントとなるのが、単なる「効率化」ではなく「変革」をもたらすものであるということです。デジタル技術を駆使してこれまでの商慣習から脱却し、全く新しい価値を創造すること、と言い換えることができるかもしれません。
日本におけるDXの現状はどうなっているのでしょうか。
まず世界経済に目を向けると、IT革命以後あらゆるフィールドにおいて新たなビジネスモデルやサービスが誕生し、ゲームチェンジ(従来型ビジネスが新ビジネスに置き換わること)が起きつつあります。
日本政府も、日本経済の発展のため急ピッチで進めるべき対策としてDXに着目。経済産業省では2018年5月に設置した「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を皮切りに、DX推進のために動いています。
そのような中、経済産業省の研究レポートとして、
・2018年9月に「DXレポート」
・2020年12月に「DXレポート2(中間取りまとめ)」
が公表されています。
DXレポート2の中で明らかになったのは、ずばり「日本でのDX推進がままならない現状」。2020年10月時点での企業のDX自己診断結果をみると、「未着手〜一部部門での実施」に留まっている企業がまだ約95%にものぼります。
(引用:経済産業省「DXレポート2中間取りまとめ(概要)」
しかし経済産業省では、ここで変わっていかなければ「デジタル競争の敗者となる」ことに言及。加えて「2025年の崖」と称し、既存の老朽化したシステムのコスト増大や、セキュリティ上のリスクなどの弊害についても触れています。DXとは今こそ国を挙げて取り組むべき大きな課題となっているのです。
それでは「建設業におけるDX」とはどのようなものが考えられるでしょうか。
建設業を取り巻く問題点として、長時間労働の常態化、少ない休日といった過酷な労働環境が挙げられます。一人一人が重い作業負担を強いられているという状況です。
こうした現状に対して、DXが変革をもたらすことができるかもしれません。
=建設業で考えられる DX(例)=
・施工管理アプリで情報シェア、事務作業を減らす
・業務システムの一括クラウド化
⇒顧客管理、交通費申請、日報、クレーム記録 etc.
・ヘルメットに装着できるウェアラブルカメラの活用
⇒遠隔から現場を確認し、移動時間を削減
・3D データと ICT(デジタル制御)建機の活用
⇒「人員」「工期」大幅カット
ただし DXにおいては単にこうした技術を導入すればいいというわけではなく、まずそれぞれの企業が変わっていく方向性を定め、それに対して最適なシステムを構築していくという視点が大切です。
また、DXトップランナーとも言える鹿島では、建築のあらゆる生産プロセスを変革する『鹿島スマート生産ビジョン』を策定。「作業の半分はロボットと」「管理の半分は遠隔で」「全てのプロセスをデジタルに」という3つのコンセプトを打ち出して革新を進めています(詳細は後述)。
(参考資料)
・建設業向け kintone ご紹介資料
・鹿島「建築の生産プロセスを変革する『鹿島スマート生産ビジョン』を策定」
企業によっては現時点で業務が円滑に回っていて、DXの必要性を感じられないかもしれません。DXに取り組む際の問題提起は企業によってさまざまですが、ここでは建設業界全般におけるDXの必要性について解説します。
建設業でDXを推進する理由として挙げられるのが、深刻な人手不足。3K(きつい・汚い・危険)というイメージがついていること、そして長時間労働に代表されるハードな労働環境であることから、若手の建設業離れが加速しています。
下の国土交通省の資料「2014年度 就業者年齢構成」のグラフによれば、20代の若年層はおよそ1割という結果に。その上、近い将来多くの高年齢層が大量離職する可能性も示唆されています。やや古い資料となるため、2021年現在ではさらにこの傾向は顕著になっていることも考えられます。
(引用:国土交通省「i-Construction〜建設現場の生産性革命〜」)
DX推進の理由について、一般的には「国際的な競争力の強化」も挙げられますが、こと建設業においてはこの人手不足を打開するためというのが大きいでしょう。DXによって生産性革命を起こし、働きやすい職場環境を実現し、若い人材を呼び込もうというのが大きな狙いとなっています。
実は国土交通省では早くからDXの必要性を認識し、建設業に特化したDX施策を進めてきました。それを建設現場の生産性革命「i-Construction」(アイ・コンストラクション)と呼んでいます。
i-Constructionで進められてきたのは、ICT(情報通信技術)の全面的な活用です。全ての建設プロセスにおいてデジタル技術を活用し、それらを連動させることによって業務を抜本的に改革。より働きやすい環境にしていこうとする取り組みです。例えば前述で触れた「3DデータとICT(デジタル制御)建機の活用」もその1つ。
i-Constructionの影響もあり、意外にも建設業のDXは比較的進んでいるという見方があります。日本国内でのDX進行状況を産業別にみると、建設業は金融に次いで2番目に進んでいるという調査結果もあるほど。
とはいえその内容はまだ限定的な部分実施にとどまっており、全社的に実践している企業はまだ少数派であることも事実。今後も業界全体で引き続き DX に取り組み、中小企業まで浸透させていくことが期待されます。
(参考資料:建設 IT NAVI「【まとめ】建設工事業における DX の現状と展望」)
2020年にはくしくも新型コロナ感染症の拡大により、ビジネス環境は大きく変化。建設業においても現場での密回避、管理部門の押印・時差通勤・リモート会議、オンライン見学会など大きな変革を余儀なくされたのではないでしょうか。
このような中、今後のビジネス変革において大きなカギを握るのが、ICTとそれを活用したDXです。「ICTを活用したいから、何かシステムを導入しよう」とするのではなく、まず必要なのは「企業が変わっていく方向性」を定めること。例えばDXを実行するとで【最高の就労環境を実現し、優秀な社員を集め・育て、人手不足を解消しながらも生産性を高める】と方向性を決め、そのために「①ICTを活用して生産性を底上げする②リモートでできる業務はリモートでやり移動時間も最小化させる」等の具体的なアクションに落とし込んでいく、という具合いです。
企業が変わっていく方向性があるからこそ、ICT及びDXが活きてくる、というわけです。
DXのメリットは建設業特有のものと、一般的に考えられるメリットがあります。
●建設業特有のメリットとして
・移動時間の短縮につながる
・3次元モデルの活用等により生産性が向上する
・ロボットや機械のシステム化により人手不足の改善に寄与する
・AIの活用による熟練技術の継承
建設業では場合によっては複数の現場を掛け持ちすることもあり、移動時間が多いのが悩みの種。これをタブレットのリモート機能やウェアラブルカメラの活用により削減することができます。
また3次元モデルの活用やロボット・機械のシステム化により生産性の向上や人員削減に寄与します。それからAIがビッグデータに基づいて技能を標準化することにより、若手でも短期間で技能を習得可能になるのも大きなメリットです。
●一般的な DX のメリットとして
・既存の老朽化したシステムを抜本的に改革することができる
・新たなビジネスモデルを創出することができる
・市場の変化に柔軟に対応できる
・デジタルネイティブ世代が活躍しやすい職場となる
政府では既存の老朽化したシステムが今後の足かせになることを問題視しています。DXによってシステムを刷新することができるのは大きいでしょう。
またDXによって業務全般にわたってデジタル化していくことは若手を活用する際の大きなメリットです。デジタルネイティブ世代はICTを使いこなすことに長けています。
若手活躍の幅が広がるばかりか、新卒採用の際のアピールポイントにもなり得ます。
では反対にDXのデメリットですが、こちらは「DXを進めていく上での障壁となっている主な要因」についてピックアップしました。
・経営戦略を立てづらい
・投資が必要(人とお金)
・既存システムとの兼ね合いが難しい
コロナ禍による緊急事態宣言の中では、多くの企業においてトップの危機認識のもとスピーディーな変革が実現しました。ですがこのように「すぐに変わらざるを得ない」状況だと認識されなければDXは先送りにされがちです。
DXはこれまでにない新しい取り組みとなるため、コストメリットや社内への周知などをふまえた経営戦略を立てづらい面があります。もちろん経営層は常に「課題」とそれに対する「経営戦略」に向き合っていますが、それらをDXと結びつけるためにはIT知識も必要となるでしょう。
また既に基幹システムを運用されている企業においては、既存のシステムとの兼ね合いが難しいという面もあります。既存システムが老朽化し、複雑になってくればそれだけ見直しは難航します。実務担当者からはたいてい反対意見が出るため、それらに対応していくことも求められます。
こうした事情を考えると、シンプルな施工管理アプリなどを省人化施策の一環として導入するのはおすすめです。アプリなら生産性向上にダイレクトに結びつくため効果が可視化しやすい上、社内や職人へも周知しやすいと考えられます。
1949年創業以来、地域社会に貢献してきた神稲建設株式会社は、施工管理アプリ「Photoruction」(生産支援クラウドサービス)を導入。
同社最大の悩みは「煩雑な工事写真の管理」でしたが、アプリ導入により撮った写真は簡単操作でクラウドにアップして一元管理。もちろん写真データはリアルタイムで共有。
さらに工程表機能、図面機能、書類機能なども備えており、アプリ機能のバランスが良かったのも決め手だったといいます。
=アプリ導入にあたって注意したこと=
・現場の状況で無理をせず、使える部分から導入していくこと
・アプリをスムーズに活用できるように環境整備を行うこと
・アプリのカスタマーサポートに勉強会を実施してもらい業務が浸透するようにした
■アプリ導入後にみられた効果
・写真整理を効率化し、残業時間の削減に成功
・データが瞬時に共有できるため、撮り直しを早期に発見できるようになった
・効率化によって確保できた時間で職人とじっくり打ち合わせできるようになった
これまでの工事監督は「事務所に帰ってから」写真をPCに落とし込んだり、資料を確認したり、電話や FAX で手配したりといったことも多くありました。クラウドサービスを使うことでいつでもどこでもデータを確認できるようになるのは大きなメリットです。
(参考資料:Photoruction「神稲建設株式会社:情報のデータ化で生産性向上」)
大阪を本拠地として全国各地に拠点を構える中島工業株式会社は、90年以上にわたって工場向けの設備工事を手がけてきた老舗企業。今回、サイボウズが開発するクラウド型業務改善システム「kintone」(キントーン)を導入。
同社最大の悩みは、拠点が全国14か所に分散しているがゆえの「ノウハウが共有できていない」ということでした。一度は、分散するノウハウを一元管理しようと別のシステムを導入したものの、システム化のメリットでもありデメリットである「標準化」が先行してしまい、細かな施工技術やノウハウが浸透せず、3か月で断念したことありました。
そこで柔軟にカスタマイズできる業務管理システムkintoneを導入し、社内の必要なデータを即座に検索できるインフラを構築。“日常行動の簡素化”に成功しました。
たとえば、『あの工法どこかでやっていなかったっけ?』『資格保有者は何人?』『どこまで支払指図が完了している?』というような探し物も「kintone」で検索すればすぐに見つかる。また、ちょっとした数字の確認なども以前は人に聞いたりファイルを探し出したりしていたものが、今は工事番号などで検索すればすぐに必要な情報を確認することができる、という風に生産性が飛躍的に向上したのです。
(参考資料:kintone「中島工業様の導入事例」)
=システム導入にあたって注意したこと=
・現場に眠る多種多様なノウハウを活かせるか。小回りの利いたカスタマイズができる
か(標準化よりもノウハウの浸透を重視)
・1〜2 か月程度でアプリケーション化できるか(スピード重視の業務改善)
・現場の声を吸い上げて改善し続ける”生きたツール” にすること
■システム導入後にみられた効果
・検索機能を活用し、必要な情報に即座にアクセスできるようになった
・Excel や紙での地道な作業から脱却し、工数削減に成功した
・経営層が全社の動きを具体的に把握できるようになった
熊本地震の際には、熊本に工場を持つ顧客が先方社内に向けて工場設備の転倒防止など、耐震対策を実行するよう情報共有していたところ、その内容を聞いた自社の営業担当が、「kintone」を使っていち早く自社内に情報共有し、各拠点ではその情報をもとお客様に対して耐震補強の提案したところ、多くのお客様に大変喜ばれたのだとか。これこそが、デジタル技術を駆使した「新しい価値の創造」と言えるのではないでしょうか。
3つ目の事例としてご紹介するのは、大手ゼネコン鹿島の『鹿島スマート生産ビジョン』です。これはデジタル技術を複合的に連携させた、建築プロセス全体にわたる大改革です。
<同社最大の悩み>
人手不足
<DX により実現したい目標>
・生産性を高め少ない人数で業務を回せる状態にする
・休日を 4 週 8 休に増やす
【主な DX 取り組み内容】
●「作業の半分はロボットと」
高度な判断や調整を要する作業は引き続き「人」が、運搬などの付帯作業・連続作業は「ロボット」(鉄骨溶接ロボットなど)が担当。人とロボットそれぞれが得意分野を生かして協働します。
●「管理の半分は遠隔で」
人と人とのコミュニケーションは大切に、「現地での確認」と「遠隔での確認」の組み合わせで、よりスマートな現場管理を実現。現場確認の際は「センシング技術」(センサーによる計測)を用いてヒューマンエラーを防止。
●「全てのプロセスをデジタルに」
設計→施工→維持管理といった全てのプロセスをデジタル情報にして管理。BIM(3次元モデル活用技術)、工程表、コストほか様々なデータを連携させて、より無駄のない計画へと導きます。またVR(仮想現実)の技術も導入しており、擬似体験をしながら仕様決めをすることも。
これらの推進にあたっては、特定の現場を「パイロット現場」(=遠隔で確認できる現場)に選定し、そこで試行錯誤を交えながら効果測定する方法が取られました。
■DX 推進によりみられた効果
・溶接ロボットの活用により上向き溶接が可能となり、工期短縮につながった
・ロボットによる吹き付け作業で、酷暑の熱中症予防につながった
・BIM により設計段階から精度を高め、施工時の手戻りを防止できるようになった
特筆すべきはBIMの活用です。BIMを活用することで「3Dの建物をソフト上に作る」ことができるため、可視化しやすい上に問題点を早期に発見することができます。実際の現場では3Dでの計画の通りに進められるため非常に効率的、というわけです。
(参考資料:鹿島「建築の生産プロセスを変革する『鹿島スマート生産ビジョン』」)
長年建設会社を悩ませている人手不足は、DXによって解消できるのでしょうか?
結論としては、直ちに人手不足解消とまではいかないまでも、「施工管理アプリ」や、遠隔での監督業務が可能になる「ウェアラブルカメラ」などの導入で生産性が向上し、長時間労働の軽減による離職の抑制や、省人化の一助となる可能性は大いにあるでしょう。
特に施工管理アプリは生産性向上にダイレクトに結びつくため、費用対効果を計算しやすく導入ハードルは低いと言えるでしょう。
当面の人材不足に対応するため、私たちライズでは建設業に特化した人材派遣サービスを展開しています。
=ライズの人材派遣サービス 3 つの強み=
・若手人材が豊富
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ライズの人材派遣なら、現場が重なってしまった時、急きょ現場監督の確保が必要になった時にスピーディーな人材確保が可能です。
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●建設業におけるDXのメリット
・移動時間の短縮につながる
・3次元モデルの活用等により生産性が向上する
・ロボットや機械のシステム化により人手不足の改善に寄与する
・AIの活用による熟練技術の継承
建設業でDXを実装できれば、「移動時間の短縮」「生産性の向上と省人化」「長時間労働の改善」などさまざまなメリットが期待できます。AIがビッグデータに基づいて技能を標準化することにより、若手でも短期間で技能を習得可能になるのも大きなメリットです。
建設業におけるDXは、現状としてはまだまだ限定的ですが、国を挙げて推進されている取り組みでもあります。先ほどの先進企業・鹿島の例などを皮切りとして、これまでの業界体質が大きく変革していくことは間違いないでしょう。
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