2021.9.30
施工管理の人手不足に悩まれている企業様が増えています。日本全体の生産年齢人口が減少して多くの業界が人手不足に直面しているなか、特に建設業界は高年齢化が著しく「彼らが引退したら後がない…」と焦りを感じることもあるのではないでしょうか。
今回は施工管理職における人手不足の現状と、そうなってしまった原因、人材を確保する方法について解説。「施工管理職はなくなるのでは?」といった噂もあるため将来の見通しについても触れていますので、ぜひ目を通してみて下さい。
最近のトレンドとして、建設業市場は回復傾向にあるにもかかわらず、就業者数は伸び悩んでいる現状があります。まずは一般社団法人 日本建設業連合会から公表されている「建設業就業者数」のグラフを見てみましょう。
(引用:一般社団法人 日本建設業連合会「建設業ハンドブック2020」)
青の折れ線グラフが「建設投資額」、つまり建設につぎ込む資金額ですので「建設市場の大きさ」と言い換えることができます。過去減少が続いていましたが2010年頃から回復に転じ、その後は増加基調となっています。
続いて一番上の赤と白の折れ線グラフを見ると、こちらが「建設業就業者数」。建設投資額が回復してきているにもかかわらず就業者数は増加せず、2010年以降も横ばいとなっていることが分かります。
次に、実際の企業様の実情にスポットを当ててみます。帝国データバンクが実施した「人手不足に対する企業の動向調査(2020年7月)」では幅広い業種の企業に実際の従業員の過不足状況を尋ねています。結果は次のとおり。
(引用:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2020年7月)」)
2020年7月の調査では「正社員が不足している」と答えた割合が多かった第1位が何と「建設業」という結果に。建設業界における正社員といえば、その中には「施工管理職」も多くを占めていると考えられます。
このように建設業全体、そして施工管理職の人手不足は統計上だけでなく、企業側が肌で実感している現状があるということです。
今後の見通しについて、施工管理の需要は今後も増加することが見込まれています。例えば大阪万博やリニア中央新幹線計画などは業界にとっては注目すべき大型需要でしょう。
また「そうした大事業には関わっていない」とする地域の建設会社にも重要な役割があります。
◆◆地域の建設会社に期待される役割◆◆
○地域インフラの整備・メンテナンス
⇒施設の耐震補強、老朽化対策
⇒道路・橋梁などの工事
○災害時の応急対応
⇒避難所の整備、道路の通行確保
○生活の基盤となる「衣食住」の一端を担う
建設業とは人々の生活を支える「基幹産業」です。
地域インフラの整備・メンテナンスをはじめ災害対応、そして住まいの建築・リフォームまで、地域社会の「安心・安全」確保のためにはなくてはならない存在。
こうして考えると、技術職である施工管理の人材確保は、国を挙げて取り組むべき課題といっても過言ではないのです。
では施工管理がこれほどまでに人手不足となってしまうのにはどのような原因があるのでしょうか。人材が流入してこない事情や、退職に至ってしまう理由について探っていきます。
人手不足になっている原因の1つ目に「新卒者の建設業離れ」があります。
下のグラフで棒グラフをご覧下さい。棒グラフは「大学・短大・高校」からの就職者、つまり新卒からの流入者数をあらわしています。
一見すると、ここ数年順調に人数が増えているように思えます。しかしこれでは決して十分とはいえません。そもそも建設業の就業者数が全産業に占める割合は約8%。それに対して「新卒から建設業への就職者」は「全ての新卒就職者数」の5.8%と、低い水準にとどまっているのです。
現在、建設業界では高年齢化が進んでいます。熟練の知識・経験は何物にも代えがたいものがありますが、一方で若い人材が入ってこないと、これらを伝承し、次世代を育成することができません。
何よりも若い人材が流入しづらい現状は、新しい現場が増えた時など「いざという時」に対応できず、慌てることになってしまうでしょう。
ちなみに入社してからの「3年以内離職率」については以下のようになっています。
◆◆3年以内離職率◆◆ 平成29(2017)年度
(引用:厚生労働省「新規学卒者の離職状況」)
建設業の離職率を全業種と比べてみると、確かに高卒は離職率が高めですが大卒の方は全業種平均を下回るという結果に。
※施工管理だけでなく設計職なども含まれているため、あくまでも目安です。
確かに建設業の仕事はハードであることは事実。ですがその中でも「やりがい」を感じながら働けるよう、各企業が努力を重ねてきた結果かもしれません。
そうなると、やはり新卒採用の段階で十分な人材を確保することが、人手不足解消のためには有効と考えられます。
人手不足になっている原因の2つ目は「残業時間の長さ」です。
以下のグラフは、日本の全業界の平均残業時間の推移をあらわしています。
(引用:働きがい研究所by openwork日本の残業時間 定点観測)
2014年に比べ右肩下がりに減少しており、2021年1〜3月では、23.93時間/月となっています。
そして以下のグラフが、業界ごとの残業時間の推移です。
(引用:働きがい研究所by openwork 日本の残業時間 定点観測)
全体的に残業時間が少なくなってはいるものの、「コンサルティング」「マスコミ」「不動産・建設」の業界は、その他の業界と乖離があることがわかります。
「不動産・建設」業界は2021年1〜3月で31.48時間/月と、全業界の残業時間と比較し、残業時間が長いという実態が見えてきます。
建設業界の残業時間が長くなる要因は、業界の特性や仕組みが大きな影響を及ぼしているようです。
◆◆残業時間が長くなる要因◆◆
○プロジェクトの進行状況に左右される
⇒進捗が悪いと「休みは日曜・祝日だけ」となることも
○早朝から業務が開始される
⇒朝は7時や8時からスタートすることが多く、さらにトラブルが起きれば対処で深夜になることも
○業務量が圧倒的に多い
早朝〜17時は現場に出向き、そこから会社に戻り膨大な量の書類整理・重要報告書の作成などを行う
人手不足になっている原因の3つ目は「重大な責任やプレッシャーを抱える仕事」だということです。
国の予算を背負った大規模プロジェクトや、短納期で終わらせなければいけないプロジェクトなど、求められることは実に様々です。
また、1つの些細なミスが大きな事故につながったり、人の命に関わったりすることもあります。
施工管理職とは現場を監督する立場であり、自分1人の身を守るだけでなく現場で働く全ての作業員の安全に気を配らなければなりません。
さらに、膨大な数の書類の作成・提出を求められるのも施工管理職の業務。
施工計画書、施工体制台帳、安全点検表など、揃えなければならない書類が法律によって定められています。
仮に、その書類に誤った情報を記載してしまうと、一気に会社としての信頼を失ってしまったり、会社存続の危機にも発展しかねません。
このように、責任の重い業務にプレッシャーを感じ、退職に至ってしまう人もいるようです。
人手不足になっている原因の4つ目は「給与面で不満を持たれやすいこと」です。
これだけ長時間労働して仕事に追われ、現場での責任も重いのに、給料はこれ?…というわけですね。
ただしここで注意したいのが、施工管理の平均年収が低いのではなく、年収に比較的バラツキがあり、人によっては「割に合わない」と思われてしまうことです。
正社員の平均年収について「求人ボックス給料ナビ」によれば、
・施工管理の平均年収:457万円
・一方、全職種での平均年収は436万円(2019年)
このように、施工管理の平均年収は全職種での平均年収に比べて高め。ただし給与分布としては293〜828万円と比較的幅があるのが施工管理の特徴です。
実は施工管理は資格がなくてもできる仕事ゆえ、資格の有無によって年収が大きく変わります。特に施工管理の上位資格である1級施工管理技士を取得していると、平均年収よりも高くなってくる傾向があります。
逆にいうと、まだ資格を取得していない場合は「割に合わない」と給与面での不満につながりやすいのです。資格の有無によって昇給が見込める場合、資格取得支援制度を設けるなどして「資格を取得することで給与がこれだけ伸びる」ということを早くから社員にアピールするのも良いかもしれません。
ここまでお伝えしたように、「新卒者が少ない」に加え、「ハードな労働環境」「ハードな現場」「給与面での不満」などの要因が重なり、建設業全体での若年層の割合はかなりの低水準。国土交通省からのデータを見てみましょう。
(引用:国土交通省「建設産業の現状と課題」)
全産業で見ても確かに高齢化は進んでいるのですが、特に建設業は顕著。約3割が55歳以上であり、29歳以下の若年層は何と約1割。いかに建設業界がシニア層で支えられているかが分かる結果となっています。
人手不足の原因はほかにもあり、5つ目は「そもそも技術職であり専門知識がないと難しいと思われやすい」です。
現在、施工管理は人手不足もあって求人情報には給与が高い好条件の案件も見受けられます。「条件がいいから応募したい」「でも施工管理って専門知識がないと難しいんじゃ…?」ということで、応募する側から見ると「自分には難しい仕事」と考えてしまうのです。
施工管理という職業は、先にも述べたとおり、専門知識が必須というよりはコミュニケーション力や調整力、細かな業務もミスなく丁寧に対応する力などが求められるお仕事です。
確かに建築や土木系の専門知識を勉強してきた方は、業務理解のスピードが速く、スムーズに進められる場面もあると思います。
しかし現在、文系出身の方や未経験の方を募集する企業が増えており、「企業側の採用基準」と「求職者側が持っている選考ハードルのイメージ」に大きなギャップがあるようです。
そして最後の6つ目は「人手の需要に波がある」です。
建設業で扱う商品、つまり現場は1つ1つが大きく、出来上がるまでに多くの時間とコストがかかります。そして現場が大きくなればなるほどそこに集中的に人材を注ぎ込むことになります。
また、建設業は「受注が先」であることも特徴。受注できなければ現場が動き出すこともなく、抱える人材は一気に過剰となってしまいます。つまり1つ現場を受注できるか否かによって、人手の需要が大きく変動してしまうのです。
余剰に人材を確保しておくことはコスト面で難しいため、急に現場が増えだすと一気に人手不足に陥ってしまう、というわけですね。
「何とかして施工管理を確保しなければならない。」
このようなお悩みをお持ちの企業様へ、施工管理の人材を確保する4つの方法についてご紹介します。
・待遇の見直しで「働きやすさ」を推進
・「施工管理」=「ガテン系の仕事」のイメージを払拭する
・社内での配置替え
・施工管理の派遣会社を利用する
これらを順番に解説していきます。
これは中・長期的な取り組みにはなりますが、これまでの業界の慣習にならってきた労働環境を見直していくことが今求められています。
国の政策としても建設業での働き方改革に乗り出しており、もはや待遇の見直しは、建設業界全体で取り組むべき課題とも言えるでしょう。
◆◆待遇見直しの例◆◆
・モチベーションが高まる評価制度
・各種手当ての整備
・社会保険の加入
・研修や資格取得支援の整備
・長時間労働や休日出勤についての配慮 etc.
上記はあくまでも一例ですが、このような待遇の見直しによって新卒・中途の受け入れ体制が強化され、また人材の流出を防ぐことにもつながります。
とはいえ実際には企業様が厳しい環境の中でやりくりして来られたことも事実。まずは社会保険については既にスタンダードとなりつつあるため、こうしたところから少しずつ、できるところから見直しを進めていかれてはいかがでしょうか。
一方で、仕事に対しては当然ながら成果が求められます。「しっかり休みは取るけど成果を出していない」ということでは困りますよね。やるべき事はやるように納得してもらうこともセットで考えなければなりません。
どうしたら休みを取ることができるか?何を効率化できるのか?などを従業員の側からも主体的に考えてもらう必要がありそうです。
施工管理にはどうしても「ガテン系の仕事」というイメージがついてくるのが現状です。確かに施工管理はヘルメット・作業着着用のブルーカラー職。ですが施設や建物を作り上げていく、綺麗になっていく現場というのはとてもクリエイティブで活気に満ちているのではないでしょうか。
この「建設的でクリエイティブ」といった側面にフォーカスしたイメージアップ戦略も1つの方法です。
◆◆イメージ戦略の例◆◆
・「現場女子」の積極採用
・気分がアガる!オシャレな作業着
・ITを活用したスマートな働き方を推進
・これらを自社サイト・採用サイトなどでアピール
特に女性の起用は政府の方でも着目しています。国土交通省では女性技術者・技能者にもっと活躍してもらうための取り組みとして、よしもとクリエイティブ・エージェンシーとのコラボで「おうちクラブ」を結成。カラフルなホームページや動画を通じて建設業界の魅力を発信しています。
「女性で施工管理は難しいのでは?」と思われるかもしれませんが、特に「住まい関連」をターゲットとしている企業様には十分に検討の余地があります。住まいは生活に密着しているため、女性ならではの視点が逆にメリットとなることもあるでしょう。
施工管理の人材を確保するために、「社内での配置替え」をする方法もあります。つまり営業・設計・事務管理など他の職種からの人事異動で施工管理に就いてもらう、といった方法です。
「営業で採用したから」「オペレーターとして採用したから」ということで、その職種に継続して従事している従業員は多いもの。たとえ別の職種であっても、建設業界で仕事をしていれば施工管理としての多少の基礎知識を身につけることができるケースも。全くの未経験者を採用するよりもスムーズに現場に入っていくことができるでしょう。
ただしできるだけ「適材適所」には配慮したいもの。スキルを見極めるとともに、面談などを通じて本人の意向を汲み取り、コミュニケーションをとった上で実行できるといいですね。
施工管理職を扱っている派遣会社を利用する方法もあります。
これは大きな現場が重なった時など、突発的に人が足りなくなった時には特におすすめの方法です。
派遣を利用する上でどんな取り決めが必要なのか、金額の相場はどれくらいなのかなど、あらかじめ知っておいた方がスムーズです。いざという時に慌てることのないよう、早めに派遣会社に相談だけしてみてはいかがでしょうか。
私たち株式会社ライズでは、施工管理職に特化した人材派遣サービスを提供しています。
=ライズの人材派遣サービス3つの強み=
・若手人材が豊富
・積極的にコミュニケーションをとることができる
・スピード感のある対応力
ライズには、20代~30代を中心としたスタッフが多く在籍しており、お客様の業務をいち早く覚え即戦力になれることが特徴の一つです。各派遣スタッフが自主的に動き、
問題解決に向けて派遣先の皆様とコミュニケーションをしっかりとっていけることも大きな特徴です。またライズでは、営業以外に顧客満足をはかるCS部門があります。派遣スタッフが心身ともに安定して業務にあたることで、結果、派遣先の皆様に安心していただけるよう、営業や CS 部門がスピーディーに対応することでトラブルを未然に防いでいます。
施工管理の人手不足でお困りの際には、ぜひお問い合わせください。
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前述で「施工管理の需要は今後も堅調」とお伝えしました。しかし世間では「施工管理職はなくなるのでは?」といった噂がささやかれています。その理由は…ずばり『AI』の発達です。
AI(人工知能)によって、私たちが現在携わっている仕事は20年後には大きく様変わりすると言われています。では施工管理の仕事はどうなのでしょうか。人手不足の現状とは裏腹に将来はなくなる、なんてことがあるのでしょうか。
結論を言うと、施工管理者にAIがとって代わるのはまだまだ現実的ではありません。施工管理の仕事内容はマネージメント、手配、計算など多岐にわたりますし、トラブルがつきものの現場では臨機応変な対応が求められるためです。ただしAIが施工管理者の「秘書」的な役割をする日は近いかもしれません。
一方、建設作業員の方を見ると既にAI化が進んでいる面もあります。作業員はルールに基づいた手順通りの施工が求められるため、AIが参入しやすいのです(もちろん熟練の技術を必要とする匠の技もありますが)。
“ 鹿島建設では、ロボットの活用により、単純な繰り返し作業や負担の大きい作業などを自動化しています。ロボットを導入したことにより、これまで人間では不可能だった下方からの上向溶接が可能になり、溶接の品質と性能が大幅に向上されたそうです。”
(引用:AIsmiley-【建設×AI】建設業へのAI導入によって人間の仕事はなくなる?)
このように、AIを活用する現場は少しずつ増えてきています。施工管理職がなくなるという心配は当分ありませんが、今後の施工管理には、施工管理アプリなどのデジタル技術を使いこなすスキルも求められることになりそうです。
ここではより長期的な視点で、若い人材確保のための対策について掘り下げます。
コロナの影響もあり、日本国内でのIT化は急速に進んできています。建設業というフィールドにおいてもこれは例外ではありません。もとより国土交通省ではICTの活用による生産性UPを目指す「i-Construction」を推進しています。
IT推進は建設業における生産性UPはもちろんですが、実は、施工管理の人材を確保するための大きなカギを握っているといっても過言ではありません。
なぜIT推進が人材確保と関係があるのか。それはずばり、
IT化が進んでいる企業の方が、若者には魅力的に映るからです。
前述で人材を確保するための「イメージ戦略」に触れましたが、IT推進も大いに企業のイメージアップにつながります。例えば、
・会議がリモートでできる
・見積もりは手書きではなくソフトウェアを利用して効率化している
・工程表などの資料をクラウドでシェアできる
・施工管理アプリを使って省人化している
これらは一例に過ぎませんが、スマホ世代にとってはデジタル技術を駆使した「スマートな働き方」を望むことはもはや当たり前。もちろんイメージだけでなく業務を効率化して「働き方の改善」に寄与する部分も大きいでしょう。
さらに最近ではDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉も出現。こちらは単なる「効率化」ではなく、ビジネスの「変革」を目指していくというもの。企業活動を「包括的にデジタルで武装する」といったイメージでしょうか。政府の方でもDX推進による日本経済の発展を目指しています。
ITを採用したり使いこなしたりするには学ばなければならないことも多く、導入するところまで手が回らないという企業様は多いことでしょう。ですが一旦導入してみると劇的に業務が変わっていくことを実感できるはず。「省人化」の点でも「人材確保」の点でも、IT推進は無視できないものとなるでしょう。
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